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2026.08.03

金型の表面処理とは?種類と選び方を金型メーカーが解説

金型技術

同じ鋼材・同じ設計の金型でも、表面処理の選び方ひとつで金型の寿命や成形品の品質は大きく変わります。昨今の物価上昇の中で、金型の価格・耐久性・良品率はお客様にとって大きな関心事ですが、金型ごとに適切な熱処理・表面処理を選定することで、寿命や成形性を高めながら、かえって原価低減につながる場合もあります。本記事では、射出成形金型で使われる代表的な表面処理を「耐摩耗・離型性・防錆・意匠」という目的別に整理し、種類ごとの効果と選び方を金型メーカーの現場目線で解説します。

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鏡面と梨地が対比する金型表面のクローズアップ

金型の表面処理とは|4つの目的から整理する

金型の表面処理とは、キャビティ(固定)側・コア(可動)側の表面に対して、硬さ・摩擦・耐食性・質感といった性質を目的に応じて付与する処理の総称です。型全体の断面まで硬さを変える「熱処理」と、表面のごく浅い層や被膜だけに働く「表面処理」は役割が異なり、この2つを組み合わせて金型の性能を設計します。

表面処理を検討するときは、処理の名前から入るよりも「何を解決したいのか」という目的から逆算すると選びやすくなります。射出成形金型では、目的は大きく次の4つに分けられます。

目的 解決したい課題の例 代表的な処理
耐摩耗 ガラス繊維入り樹脂によるゲート周辺の摩耗 焼入れ・窒化処理
離型性 張り付き・焼付きによる離型不良 硬質クロムめっき・NAP処理
防錆・耐食 長期保管中の錆、腐食性ガスによる曇り 無電解ニッケルめっき
意匠(質感) 梨地・シボなど表面テクスチャの付与 ブラスト処理・電鋳

以下、この4つの目的を頭に置きながら、代表的な処理を順に見ていきます。なお、表面処理の効果は土台となる鋼材選定と切り離せません。鋼材の分類は金型用鋼材の選び方で詳しく解説しています。

焼き入れ・焼戻し|すべての土台となる熱処理

射出成形金型でもっともポピュラーな、基本となる熱処理です。鋼材を高温に加熱してから急冷し(焼入れ)、その後に再加熱して粘り強さを調整する(焼戻し)ことで、型全体の硬さと耐摩耗性を高めます。NAK材などの「プリハードン鋼(あらかじめ調質された状態で供給される鋼材)」は出荷時に熱処理済みですが、SKD材などでは切削・旋削加工の後に焼入れ・焼戻しを施します。型全体の剛性と耐摩耗性の土台となる処理であり、後続のすべての表面処理はこの硬度を前提として設計されます。

硬度 50〜62 HRC
対象範囲 型全体(全断面)
主な効果 基本強度・耐摩耗性の確保

焼入れは高温処理のため歪みや寸法変化を伴います。そのため、焼入れ鋼を使う金型では熱処理後の仕上げ加工まで含めた工程設計が必要です。焼入れと次に述べる窒化処理の使い分けは、金型の焼入れと窒化処理の違いで詳しく解説しています。

窒化処理|寸法変化を抑えて表面だけを硬くする

窒化処理(Nitriding)は、鋼の表面から窒素を拡散浸透させて硬化層を作る拡散処理です。500〜560℃の比較的低い温度で処理するため寸法変化が極めて小さく、仕上げ加工後の精密な金型にも適用できます。方法にはガス窒化・プラズマ窒化・塩浴窒化(軟窒化)などがあります。

ガラス繊維強化樹脂(GF入りのPA・PPなど)のように摩耗性の高い材料を成形する金型では、樹脂の流れが集中するゲート周辺やコア(可動)側の先端が先に摩耗します。窒化処理はこうした部位の耐摩耗・耐焼付き対策として特に有効です。

硬度 900〜1100 HV
処理深さ 0.05〜0.3 mm
主な効果 耐摩耗・耐焼付き・寸法安定

実際の金型設計では、プリハードン鋼のまま使うか、そこに窒化処理を加えて表面硬度を上げるかを、樹脂の摩耗性と生産数量から判断します。当社でも、NAK材の金型に必要に応じて窒化処理を組み合わせ、コストと耐久性のバランスを取る提案を行っています。

めっき処理|離型性・防錆・耐摩耗を被膜で付与する

めっき被膜のある金属部品表面の金属光沢のクローズアップ

めっきは金型表面に金属被膜を作る処理で、目的に応じて複数の種類を使い分けます。ここでは射出成形金型で使用頻度の高い3つを紹介します。それぞれの詳しい使い分けは金型のめっき処理|硬質クロムと無電解ニッケルの違いで解説しています。

硬質クロムめっき

電解によりクロムを析出させ、低摩擦・高硬度・耐食性を兼ね備えた被膜を形成します。キャビティ全面への施工が可能で、鏡面仕上げとの相性もよく、離型性の向上にも寄与します。摩耗した場合に再めっきで補修できる点も、量産金型では大きな利点です。近年は六価クロムの環境規制(RoHS・ELV指令など)を背景に、三価クロムや代替コーティングへの移行が業界全体で進んでいます。

硬度 800〜1000 HV
膜厚 5〜30 μm
主な効果 離型性向上・耐食・耐摩耗

無電解ニッケルめっき

電源を使わない化学還元反応によって、ニッケル–リン合金を析出させる処理です。電気めっきと違って電流の偏りが生じないため、複雑形状やアンダーカット形状(金型を単純に開くだけでは抜けない形状)の部位、深いリブにも均一な膜厚が得られるのが最大の特徴です。耐食性・防錆効果に優れ、量産金型の長期保管や使用中の腐食防止にも活用されます。めっき後に熱処理を加えることで、さらに硬度を高めることも可能です。

硬度 500〜700 HV(熱処理後 最大 900 HV)
膜厚 5〜30 μm
主な効果 均一析出・耐食・防錆

NAP処理(機能性複合めっき)

無電解ニッケルめっきの浴中にPTFE(フッ素樹脂)・SiC・ダイヤモンドなどの微粒子を均一に分散させ、被膜の中に取り込んだ複合めっきです。通常の無電解ニッケルと比べ、摩擦係数の大幅な低減(PTFE複合)や硬度の向上(ダイヤモンド・SiC複合)を実現できます。複雑形状への均一析出性を保ちながら機能を付加できる点が強みで、POM・PAのように焼付き・離型不良が課題となりやすい樹脂の金型に特に有効です。

硬度 500〜800 HV(複合粒子の種類による)
膜厚 5〜30 μm
摩擦係数 0.05〜0.1(PTFE複合の場合)
主な効果 離型性向上・耐焼付き・耐摩耗

ブラスト処理|梨地の付与と下地づくり

ブラスト処理は、ガラスビーズや砂などの研削材を高速で噴射し、金型表面に均一な梨地(つや消しのざらざらした質感)を付与する機械的な処理です。成形品の光沢を落とす意匠処理として使われるほか、めっきや窒化の前に表面を均一に整える下地処理としても欠かせない工程です。研削材の粒度と噴射圧力の組み合わせで、表面粗さを幅広く調整できます。

表面粗さ Ra 0.8〜12 μm(粒度により調整)
処理範囲 表面のみ
主な効果 梨地付与・光沢除去・下地処理

つや消しの外観は、指紋や細かい傷を目立ちにくくする実用面の効果もあります。食品容器のキャップや化粧品のキャップなど、手に触れる製品の質感づくりにも広く使われています。

その他の処理|電鋳・PVDコーティング

電鋳成形(ニッケル電鋳)

母型の上にニッケルを厚く電着させ、剥離してキャビティの入れ子として使用する手法です。シボ・ヘアライン・木目・梨地などの意匠テクスチャをサブミクロン精度で転写できるため、自動車内装部品や家電のカバーなど、意匠面を持つ射出成形金型で広く採用されています。同一の母型から複数の入れ子を複製できるため、多数個取りの金型への対応にも優れます。

材料 ニッケル(Ni)
膜厚 0.3〜数 mm
転写精度 サブミクロン対応
主な効果 意匠テクスチャ転写・多数個取り対応

PVDコーティング(TiN・CrN・DLC)

物理蒸着(真空中で材料を蒸発させて薄膜を作る方法)により、窒化チタン(TiN)・窒化クロム(CrN)・DLC(ダイヤモンドライクカーボン)などのセラミックス系薄膜を形成する処理です。めっきや窒化を上回る表面硬度と耐熱性を持ち、摩耗が特に激しい条件や高い離型性が求められる場面で採用が広がっています。膜厚は数μmと薄く、鏡面性を保ったまま機能を付与できる一方、処理コストは高めです。

表面処理の選び方|課題から逆算する

ここまでの処理を1つの表に整理します。数値は代表値であり、実際は鋼種・処理業者・処理条件によって変わります。

処理 硬度の目安 膜厚・深さ 主な目的
焼入れ・焼戻し 50〜62 HRC 型全体 基本強度・耐摩耗
窒化処理 900〜1100 HV 0.05〜0.3 mm 耐摩耗・寸法安定
硬質クロムめっき 800〜1000 HV 5〜30 μm 離型性・耐食・耐摩耗
無電解ニッケルめっき 500〜700 HV 5〜30 μm 均一析出・防錆
NAP処理 500〜800 HV 5〜30 μm 離型性・耐焼付き
ブラスト処理 表面のみ 梨地付与・下地処理
電鋳 0.3〜数 mm 意匠テクスチャ転写
PVDコーティング 1500 HV以上 数 μm 高耐摩耗・高離型

選定の入り口は「困りごと」です。現場でよくあるご相談を例に、考え方を整理します。

  • ガラス繊維入り樹脂でゲート周辺が摩耗する → 窒化処理、または焼入れ鋼への変更を検討します。
  • POM・PAで張り付き・焼付きが出る → NAP処理や硬質クロムめっきで摩擦係数を下げます。
  • PVCや難燃剤入り樹脂で型が腐食する → 無電解ニッケルめっきに加え、ステンレス系鋼材の採用も含めて検討します。
  • 製品の光沢を消したい・質感を揃えたい → ブラスト処理による梨地付与を検討します。
  • 金型の長期保管で錆が心配 → 無電解ニッケルめっきによる防錆が有効です。

重要なのは、表面処理は単独で決まるものではなく、鋼材・型構造・成形条件・生産数量とセットで決まるという点です。たとえば同じ耐摩耗対策でも、生産数量が多ければ焼入れ鋼+窒化、中量産ならプリハードン鋼+部分的な窒化、というように費用対効果の判断が変わります。当社では100万ショット以上の生産に対応する高耐久な金型設計を基本とし、金型仕様の検討段階から熱処理・表面処理を織り込んだ提案を行っています。

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「どの表面処理が合うのか分からない」という段階でも問題ありません。樹脂・製品形状・生産数量をお聞かせいただければ、金型設計の観点から最適な処理の組み合わせをご提案します。
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よくあるご質問

Q1. 使用中の金型に、後から表面処理を追加できますか?

処理の種類によっては可能です。たとえば硬質クロムめっきや窒化処理は、既存金型への後施工や、摩耗後の再処理が行われることもあります。ただし鋼材や過去の処理履歴によって適否が変わるため、内容にもよりますが、まずは金型の現状と合わせてご相談ください。

Q2. 表面処理はいつの段階で決めるべきですか?

金型設計の前、仕様検討の段階が理想です。処理によっては工程順序(仕上げ加工の前か後か)や寸法公差の考え方が変わるため、後から追加するより、最初から織り込んだ方が品質・コストの両面で有利です。

Q3. 表面処理をすれば金型のメンテナンスは不要になりますか?

不要にはなりません。表面処理は摩耗や錆の進行を遅らせますが、ガス汚れの清掃や摺動部の点検といった定期メンテナンスは引き続き必要です。当社では金型納品後も成形メーカーと併走し、メンテナンスを前提とした長期安定稼働をサポートしています。

Q4. 複数の処理を組み合わせることはできますか?

できます。むしろ実際の金型では「焼入れ+硬質クロムめっき」「プリハードン鋼+窒化」「ブラスト下地+めっき」のような組み合わせが一般的です。目的の優先順位を整理したうえで、組み合わせを設計します。

まとめ|表面処理は「目的から」選ぶ

金型の表面処理は、耐摩耗・離型性・防錆・意匠という4つの目的から逆算すると選びやすくなります。焼入れ・焼戻しが型全体の土台を作り、窒化・めっき・ブラストなどの表面処理が目的に応じた機能を上乗せする——この役割分担を押さえることが、寿命と品質を両立する金型づくりの第一歩です。

当社は食品・自動車・医療機器・化粧品など幅広い分野のプラスチック射出成形金型を設計・製作しており、鋼材選定から熱処理・表面処理まで一貫した金型仕様の提案を行っています。設備の詳細は設備一覧を、これまでの製作例は製作実績をご覧ください。

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金型の表面処理・熱処理の選定を含む金型設計のことなら、株式会社三幸にお任せください。
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この記事の監修者

営業技術部 部長 岡鼻

株式会社三幸にて金型設計に18年従事。射出成形技能士2級。化粧品・医薬品・食品分野のキャップ・容器を中心に、鋼材選定・表面処理を含む量産金型の設計・製作に長年取り組んできた。

参考文献

  1. 株式会社プロテリアル「表面処理の基礎知識|金型向けに効果的な種類と特長」
  2. ミスミ「技術情報:射出成形金型 基本設計」
  3. 株式会社三幸「製作実績

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※ 記載の硬度・膜厚は代表値です。鋼種・処理業者・処理条件により異なります。実際の選定は材料特性と使用条件を踏まえ、処理内容と合わせてご相談ください。