2026.08.06
金型の現場でしか聞かないユニークな言葉たち ―― バカ、ダボ、ノロ…悪口ではないんです
「図面には載っていないのに、現場では当たり前に飛び交う言葉」というものが、金型づくりにはたくさんあります。金型メーカーとお付き合いのある成形メーカーさんや、現場に入ったばかりの方が最初につまずくのが、実はこうした”現場の口語”です。今回は、辞書にもカタログにも載っていない、けれど知っていると一気に現場になじめる言葉を一部ご紹介します。
ダライ粉(だらいこ)
旋盤で金属を削ったときに出る、螺旋状の切りくずのことです。金型のブロックや入れ子を加工する工程で必ず発生します。

面白いのは語源です。「ダライ」は江戸時代に日本へ伝わったオランダ語「draai-bank(ドラーイ・バンク=旋盤)」に由来するとされ、「draai」が回転を意味し、「盤」はその当て字だといわれています。ちなみに、切削用の刃物を指す「バイト」も、オランダ語の「beitel(のみ、彫刻刀)」が語源だという説が有力です。金属加工の現場には、意外とオランダ語起源の言葉が根付いています。
バカ穴(ばかあな)
ボルトを通すためだけに、あえて緩めに開けておく逃げ穴のことです。ネジ山を切って締め込む「タップ穴」と対で覚えると分かりやすい言葉で、「そこはバカ穴でいいよ」「バカ穴で逃がしておいて」というように使われます。ボルトがすんなり“バカでも通る”くらい緩い、というのが名前の由来だとされています。また、穴に限らずゆるめに設定して逃がすことをそのまま「バカ逃げ、バカ逃がし」と呼んだりもします。昔の職人気質の息遣いまでもが伝わってくる絶妙な言語センスです。
ダボ穴(だぼあな)
バカ穴とは正反対に、精密にぴったり合わせるための穴です。金型の板と板の位置を寸分違わずずれないように合わせる「ノックピン(ダウエルピン)」を打ち込むための穴で、現場では「ダボ」「ダボピン」とも呼ばれます。バカ穴が”緩さ”を担う穴だとすれば、ダボ穴は”精度”を担う穴――穴径や面粗さ、素材の硬さまで厳しく管理され、ピンを軽く圧入したときの弾性変形による面圧と摩擦で位置がずれないように保持します。「バカ穴」と「ダボ穴」、名前は対照的ですが、どちらも金型の組立精度を支える大事な役割を持っています。
ノロ
研削加工で出る、削りかすと研削液が混ざったヘドロ状の汚泥のことです。旋盤で出る切りくずが「ダライ粉」なら、研削盤で出る削りかすは「ノロ」――同じ”削りくず”でも、加工方法によって呼び名が変わるのが面白いところです。
ツライチ(面一)
二つの部品の面に段差がなく、ぴったり揃っている状態を指します。「そこはツライチにして」「面一で仕上げて」という指示は、金型の組立や部品同士の位置合わせで日常的に使われます。図面上では「面一公差」のように書かれることもありますが、口頭では圧倒的に「ツライチ」が使われます。
アタリ
部品同士がどのくらいしっかり接触しているか、その当たり具合そのものを指す言葉です。現場では「光明丹(こうみょうたん)」と呼ばれる赤い顔料を接触面に薄く塗り、実際に合わせてみて色が移った部分を見ることで接触状態を確認します。この作業を「アタリを出す」と呼びます。型の合わせ面や、部品の摺動面が正しく機能しているかを確かめる、地味ながら金型づくりの精度を支える重要な工程です。

かじり
擦れ合う金属面同士が摩擦熱で焼き付き、表面が引っかかって削れてしまう現象です。金型では、スライドコアや入れ子など、繰り返し動く摺動部分で起こりやすいトラブルとして知られています。原因は潤滑不足や面粗度の悪さ、材質の相性など様々で、対策として表面処理やコーティング、潤滑剤の選定が行われますが、なんといっても金型の精度が肝心です。金型の精度と価格は比例しますが、精度の高い金型を起こすことで、長く使用することができます。
「型がかじった」「かじり傷が入った」というように、名詞にも動詞にも使われる、金型トラブルの代表格ともいえる言葉です。


↑写真はかじったまま無理やり圧入してしまったガイドピン。相手穴にも傷ができていているのが分かります。成形機場でこれが起きると金型が閉じなかったり、部品や製品形状部が破損したりと致命的なトラブルにつながります。
おわりに
こうして並べてみると、それぞれの言葉には「なぜそう呼ばれるようになったか」という背景があり、単なる専門用語の暗記とは違う面白さがあります。次に金型メーカーを訪れたとき、あるいは金型製造に従事する方々と話すときに、こうした言葉が耳に入ってきたら、ぜひ意味を思い出してみてください。
出典