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2026.08.03

金型のめっき処理|硬質クロムと無電解ニッケルの違い

金型技術

金型にめっきを検討するとき、硬質クロムと無電解ニッケルのどちらを選ぶべきか迷った経験はないでしょうか。どちらも射出成形金型で定番のめっきですが、被膜の付き方と得意分野が異なるため、目的と型の形状によって答えが変わります。本記事では、金型に使われる代表的なめっき処理の特徴と違いを比較表で整理し、樹脂や課題に応じた使い分けを金型メーカーの現場目線で解説します。

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成形する樹脂や金型の形状に合わせためっき処理の選定について、まずはお気軽にご相談を承っています。
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金属光沢のあるめっき被膜が施された金型部品のクローズアップ

金型にめっきを施す3つの目的

めっきは金型表面に金属の被膜を作る処理です。射出成形金型でめっきを検討する目的は、大きく次の3つに整理できます。

目的 課題の例 効果の仕組み
離型性の向上 張り付き・焼付きによる離型不良 低摩擦の被膜で樹脂の滑りを良くする
防錆・耐食 長期保管中の錆、腐食性ガスによる曇り 母材を被膜で覆い腐食から守る
耐摩耗 摺動部・ゲート周辺の摩耗 母材より硬い被膜で摩耗を遅らせる

金型の表面処理にはめっき以外にも窒化処理やブラスト処理などがあります。全体像は金型の表面処理とは?種類と選び方で解説しているので、めっきが最適か迷っている段階の方はそちらからお読みください。

硬質クロムめっき|離型性と耐摩耗の定番

硬質クロムめっきは、電解によりクロムを析出させる電気めっきです。800〜1000 HVの高い硬度と低い摩擦係数を兼ね備え、キャビティ(固定)側の意匠面から摺動部まで幅広く使われます。鏡面仕上げとの相性がよく、磨き上げた面に施工することで離型性の向上と光沢の維持を両立できます。

硬度 800〜1000 HV
膜厚 5〜30 μm
主な効果 離型性向上・耐食・耐摩耗

運用面の利点として、摩耗した被膜を剥離して再めっきする補修が可能なことが挙げられます。長期の量産で被膜が薄くなっても、型を作り直さずに機能を回復できるため、量産金型の維持コストを抑えられます。

一方で、電気めっきである以上、電流の集中しやすい角部は膜が厚く、深い溝や穴の奥は膜が付きにくいという性質があります。複雑形状への均一な施工は苦手分野です。また、六価クロムの環境規制(RoHS・ELV指令など)を背景に、三価クロムや代替コーティングへの移行が業界全体で進んでいる点も、長期的には押さえておきたい動向です。

無電解ニッケルめっき|複雑形状への均一析出と防錆

無電解ニッケルめっきは、電気を使わず化学還元反応でニッケル–リン合金を析出させる処理です。電流の偏りが原理的に存在しないため、複雑形状やアンダーカット形状(金型を単純に開くだけでは抜けない形状)の部位、深いリブにも均一な膜厚が得られるのが最大の特徴です。

硬度 500〜700 HV(熱処理後 最大 900 HV)
膜厚 5〜30 μm
主な効果 均一析出・耐食・防錆

耐食性・防錆効果に優れるため、量産金型の長期保管対策や、PVC・難燃剤入り樹脂など腐食性ガスが発生しやすい樹脂の対策として活用されます。析出したままの硬度は硬質クロムに及びませんが、めっき後に熱処理を加えることで最大900 HV程度まで高めることも可能です。腐食性樹脂への対策では、被膜だけでなくステンレス系鋼材の採用も選択肢になります。鋼材側の対策は金型用鋼材の選び方をご覧ください。

NAP処理|PTFE複合で離型性を突き詰める

成形品が金型からスムーズに離型する様子を象徴する樹脂成形品のクローズアップ

NAP処理は、無電解ニッケルめっきの浴中にPTFE(フッ素樹脂)・SiC・ダイヤモンドなどの微粒子を分散させ、被膜に取り込んだ機能性複合めっきです。無電解ニッケルの均一析出性を保ったまま、粒子の種類に応じた機能を上乗せできます。

PTFEを複合した場合、摩擦係数は0.05〜0.1と、通常のめっきを大きく下回ります。POM・PAのように滑り性が課題になりやすい樹脂や、離型不良・焼付きが慢性化している金型の対策として特に有効です。ダイヤモンドやSiCを複合すれば、硬度を高めて耐摩耗性を強化する方向にも振れます。

硬度 500〜800 HV(複合粒子の種類による)
膜厚 5〜30 μm
摩擦係数 0.05〜0.1(PTFE複合の場合)
主な効果 離型性向上・耐焼付き・耐摩耗

3つのめっきの比較と使い分け

ここまでの3つを1つの表に整理します。数値は代表値であり、実際は処理業者・処理条件によって変わります。

項目 硬質クロム 無電解ニッケル NAP(PTFE複合)
硬度 ◎ 800〜1000 HV ○ 500〜700 HV ○ 500〜800 HV
膜厚の均一性 △ 形状の影響大 ◎ 複雑形状も均一 ◎ 複雑形状も均一
離型性 ○ 低摩擦 △ 標準的 ◎ 摩擦係数0.05〜0.1
防錆・耐食
再めっき補修 ◎ 実績多い ○ 可能 ○ 可能

使い分けの目安を、現場でよくあるご相談に沿って整理します。

  • 鏡面の意匠面で離型性と光沢を両立したい → 硬質クロムめっきが第一候補です。
  • 深いリブ・細かい形状まで均一に守りたい → 無電解ニッケルめっきが向いています。
  • POM・PAの張り付き・焼付きを解消したい → NAP処理(PTFE複合)を検討します。
  • 長期保管の錆を防ぎたい → 無電解ニッケルめっきによる防錆が定番です。
  • 摩耗した既存めっきを回復したい → 剥離・再めっきによる補修を検討します。

実際の選定では、めっき単独ではなく、鋼材・磨き仕上げ・型構造との組み合わせで考えることが重要です。たとえば離型不良の対策では、めっきの前に抜き勾配やゲート位置といった金型設計側の要因を確認すべきケースも少なくありません。当社では、金型仕様の検討段階から表面処理を織り込み、100万ショット以上の生産に対応する高耐久な金型設計を基本とした提案を行っています。

■ ご相談ください
「離型不良の原因がめっきで解決するのか、設計側の問題なのか分からない」という段階のご相談も歓迎です。樹脂・製品形状・症状をお聞かせいただければ、金型設計の観点から切り分けてご提案します。
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よくあるご質問

Q1. 使用中の金型に後からめっきできますか?

多くの場合可能です。ただし鋼材の種類や過去の処理・溶接補修の履歴によって密着性が変わるため、事前の確認が必要です。内容にもよりますが、金型の現状と合わせてまずはご相談ください。

Q2. めっきをすれば磨き(鏡面仕上げ)は不要になりますか?

なりません。めっきは下地の面状態をそのまま写し取るため、鏡面が必要な面は磨き上げてからめっきを施します。逆に、下地の傷や磨きムラは被膜の上からも見えてしまうため、めっきの品質は下地仕上げの品質に大きく依存します。

Q3. めっきと窒化処理はどう使い分けますか?

被膜を「載せる」めっきに対し、窒化は母材表面に窒素を浸透させて「変質させる」処理で、剥がれの概念がない一方、離型性や防錆の付与はめっきが得意です。耐摩耗が主目的なら窒化、離型性・防錆が主目的ならめっき、が大まかな目安です。詳しくは金型の焼入れと窒化処理の違いをご覧ください。

まとめ|めっきは「目的×形状」で選ぶ

金型のめっきは、離型性・防錆・耐摩耗のどれを主目的にするか、そして型の形状が複雑かどうかで選択肢が絞れます。鏡面×離型性なら硬質クロム、複雑形状×防錆なら無電解ニッケル、離型性を突き詰めるならNAP処理——この整理を押さえたうえで、鋼材や型構造とセットで最適解を検討することが、長寿命で安定した金型づくりにつながります。

当社は食品・自動車・医療機器・化粧品など幅広い分野のプラスチック射出成形金型を設計・製作しており、表面処理を含めた金型仕様の一貫した提案を行っています。これまでの製作例は製作実績を、射出成形の受託については射出成形のページをご覧ください。

■ お問い合わせ
金型のめっき処理の選定を含む金型設計のことなら、株式会社三幸にお任せください。
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この記事の監修者

営業技術部 部長 岡鼻

株式会社三幸にて金型設計に18年従事。射出成形技能士2級。化粧品・医薬品・食品分野のキャップ・容器を中心に、表面処理仕様を含む量産金型の設計・製作に長年取り組んできた。

参考文献

  1. 株式会社プロテリアル「表面処理の基礎知識|金型向けに効果的な種類と特長」
  2. 一般社団法人日本金型工業会 技術情報
  3. 株式会社三幸「製作実績

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※ 記載の硬度・膜厚・摩擦係数は代表値です。処理業者・処理条件により異なります。実際の選定は材料特性と使用条件を踏まえ、処理内容と合わせてご相談ください。