2026.10.09
スパイラルフローとは|射出成形の流動長測定と金型設計への活かし方
一般的に樹脂の流れ特性は、物性表上のメルトフローなどの定量データで比較されます。これに対し、より実際の金型内での挙動に近く、手軽に成形性を評価できるアプローチとして「スパイラルフロー」が活用されています。本記事では、スパイラルフローの仕組み、流動長を左右する要因、そして金型設計・成形条件への活かし方を、プラスチック成形用金型の設計・製作を手がける株式会社三幸の知見をもとに解説します。
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スパイラルフローとは
スパイラルフローとは、渦巻き(スパイラル)状の流路を彫った金型に一定条件で樹脂を射出し、樹脂が固化して止まるまでに到達した長さ=流動長(スパイラルフロー長)を測定する試験のことです。流動長が長いほど「流れやすい樹脂」、短いほど「流れにくい樹脂」と相対的に評価できます。
溶けた樹脂が金型の隅々まで行き渡るかどうかは、製品の充填不良や外観品質を大きく左右します。スパイラルフローは、この「樹脂の流れやすさ」を実際の射出成形に近い条件で数値化できるため、材料選定・成形条件出し・金型設計の現場で広く使われています。
スパイラルフロー試験の位置づけ
樹脂の流動性を表す指標としては、メルトフローレート(MFR:一定温度・一定荷重で樹脂が押し出される量)がよく知られています。MFRはJIS K 7210で規格化された材料そのものの試験で、材料メーカーのデータシートに必ず記載される基本特性です。
一方スパイラルフローは、実際の成形と同じ高い射出圧力・急冷条件で樹脂を流すため、金型の中で樹脂がどこまで届くかという実務的な感覚に近い結果が得られます。MFRが「材料の物性値」だとすれば、スパイラルフローは「成形現場での流れ方の目安」と言い換えられます。両者を併用することで、材料の素性と実成形での挙動の両面から流動性を把握できます。
MFRとスパイラルフローの違いを整理すると、次のとおりです。
| 項目 | MFR(メルトフローレート) | スパイラルフロー |
|---|---|---|
| 規格 | JIS K 7210で規格化 | 各社・現場の実用試験 |
| 測定するもの | 一定温度・荷重で押し出される樹脂量 | 渦巻き流路を流れた長さ(流動長) |
| 流動条件 | 低せん断・低圧 | 実成形に近い高圧・急冷 |
| 主な用途 | 材料の基本物性・グレード管理 | 実成形での充填性の目安・金型設計 |
| 入手性 | 材料データシートに必ず記載 | 必要に応じて実測 |
スパイラルフローが使われる場面
スパイラルフローは、主に次のような場面で活用されます。
- 同じ樹脂のグレード比較(高流動グレードと標準グレードの選定)
- 成形条件出しの際の流動性の確認
- 金型設計時のゲート位置・肉厚・流路の検討材料
- CAE(流動解析シミュレーション)の結果と実測の照合

スパイラルフローの測定の仕組み
測定の流れはシンプルです。成形機の可塑化装置(樹脂を加熱して溶かし、計量する装置)で樹脂を溶融し、渦巻き状の流路を持つ金型へ射出します。樹脂は流路を進みながら金型に熱を奪われて少しずつ粘度を上げ、やがて固化して停止します。この停止位置までの長さを読み取ったものが流動長です。
渦巻き状の流路には目盛りが刻まれており、流動長を直接読み取れるようになっています。重要なのは、樹脂温度・射出圧力・金型温度といった条件を一定に揃えて比較することです。条件が変われば流動長も変わるため、比較したい要素以外は固定して測定します。
同じ条件で複数回成形して再現性を確認し、平均的な流動長で評価するのが一般的です。具体的な流動長は樹脂や条件によって大きく変わるため、ここで数値を断言することはできませんが、材料メーカーが公開する流動長のデータは、金型設計の初期検討で有力な手がかりになります。
スパイラルフロー長を左右する要因
流動長は、樹脂そのものの性質と成形条件、製品形状の3つの要因で決まります。それぞれを押さえておくと、充填トラブルの原因切り分けがしやすくなります。
樹脂材料・グレード
もっとも影響が大きいのが樹脂の種類とグレードです。一般に、汎用樹脂は流れやすく、エンジニアリングプラスチックやスーパーエンプラは流れにくい傾向があります。当社が扱うことの多いABS・PP・PA・POMでも、グレード(高流動・標準・高粘度など)によって流動長は変わります。ガラス繊維などのフィラーを加えた強化グレードは、さらに流れにくくなる点に注意が必要です。
成形条件(樹脂温度・射出圧力・金型温度)
同じ樹脂でも、成形条件次第で流動長は変化します。代表的な関係は次のとおりです。
- 樹脂温度を上げると粘度が下がり、流動長は伸びやすい
- 射出圧力・射出速度を上げると、樹脂が固化する前に遠くまで届きやすい
- 金型温度を上げると樹脂が冷えにくくなり、流動長は伸びやすい
ただし、いずれも上げすぎればバリ・焼け・サイクル悪化などの別の問題につながります。流動長は「条件を上げれば良い」という単純な話ではなく、品質とのバランスで最適点を探ることになります。
製品の肉厚・流路断面
樹脂が流れる断面が厚いほど、熱が逃げにくく圧力も伝わりやすいため、流動長は伸びます。逆に薄肉の製品は流れにくく、充填不足(ショートショット)が起こりやすくなります。薄肉化と流動性は相反しやすいため、製品設計の段階から流動長を意識した肉厚設定が欠かせません。
| 要因 | 流動長が伸びる方向 | 主な副作用・注意点 |
|---|---|---|
| 樹脂グレード | 高流動グレードを選ぶ | 強度・耐熱とのトレードオフ |
| 樹脂温度 | 高くする | 焼け・熱劣化・サイクル悪化 |
| 射出圧力・速度 | 高くする | バリ・残留応力・ジェッティング |
| 金型温度 | 高くする | 冷却時間の延長によるサイクル悪化 |
| 製品肉厚 | 厚くする | ヒケ・コスト増・冷却ムラ |
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「薄肉化したら充填不良が出るようになった」「材料変更で流動性が変わって困っている」といったお悩みは、内容にもよりますがまずはご相談を承っています。樹脂の流動性を踏まえた金型設計のご提案をいたします。
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金型設計・成形へのスパイラルフローの活かし方
スパイラルフローの値は、単なる材料比較にとどまりません。金型を設計する前段階で、製品が問題なく成形できるかを見極める判断材料として活かせます。当社では、図面・3Dデータをお預かりした段階で、流動性の観点から成形のしやすさを確認しています。
ゲート位置と流動末端の充填
樹脂はゲート(金型へ樹脂を注入する入口)から最も遠い箇所まで届かなければ、ショートショット(充填不足による欠肉)になります。流動長の目安が分かっていれば、ゲートから流動末端までの距離が流動長の範囲に収まるかを設計段階でチェックでき、必要に応じてゲートの追加や位置変更を検討できます。
肉厚設計とDFM
当社では、お客様の図面・3Dデータを受領した後、DFM(製造しやすさを考慮した設計検討)の観点で確認を行い、金型設計の前にお客様と相談しながら仕様を確定していきます。流動性の確認はこのDFMの重要な一項目で、肉厚の均一化・抜き勾配・ゲート位置・パーティングラインをセットで検討します。流動を考慮せずに設計を進めると、射出工程でサイクルが長くなったり、製品が変形したりといった問題が発生する可能性があります。
多数個取り金型の流動バランス
1つの金型で複数の製品を同時に成形する多数個取りの金型では、各キャビティ(製品形状を成形する空間)へ均等に樹脂が届くこと(流動バランス)が品質の鍵になります。流動長の知見は、ランナー(溶融樹脂を各ゲートへ導く流路)の太さや長さを決める際の基礎データとなり、充填のばらつきを抑えた金型設計につながります。当社は試作の1個取りから多数個取りの量産金型まで、流動を踏まえた金型を提供しています。これまでの製作実績一覧もあわせてご覧ください。
スパイラルフローを扱うときの注意点
便利な指標である一方、スパイラルフローには知っておくべき限界もあります。
- 渦巻き試験金型の流路断面と実製品の形状は異なるため、流動長はあくまで相対的な目安として扱う
- 測定条件(樹脂温度・圧力・金型温度)が違えば数値は変わるので、同一条件での比較が前提
- 実際の充填性はCAE(流動解析)や試作での検証と組み合わせて判断するのが確実
当社では、流動解析や試作(3Dプリント・切削試作・1個取りの試作金型)と組み合わせて流動性を検証し、量産前に充填トラブルの芽を摘んでおく進め方を取っています。設備面の詳細は三幸の主要設備、品質を担保する体制は品質管理のページでご紹介しています。
よくあるご質問
Q1. スパイラルフローとMFRはどちらを見ればよいですか?
両方を併用するのが理想です。MFRは材料データシートに必ず記載される基本物性で材料選定の出発点になり、スパイラルフローは実成形に近い条件での流れ方の目安になります。金型設計の検討では、まずMFRで材料の素性を把握し、流動長で充填可否のイメージを掴むという使い分けが実用的です。
Q2. 流動長が足りない場合はどうすればよいですか?
対策は複数あります。高流動グレードへの変更、樹脂温度・射出圧力・金型温度の調整、ゲートの追加・位置変更、肉厚の見直しなどです。製品要件によって取れる手段が変わるため、内容にもよりますがまずはご相談を承っています。当社では金型設計と成形条件の両面から、充填を成立させる構成をご提案します。
Q3. 設計段階で流動性を確認してもらえますか?
はい。図面・3Dデータをお預かりした段階で、流動性を含むDFMの観点から成形のしやすさを確認しています。金型を製作する前にお客様と仕様をすり合わせることで、量産での手戻りを抑えられます。なお金型製作のリードタイムは、形状や個数により4〜12週が目安です。
Q4. どんな樹脂に対応していますか?
当社はABS・PP・PA・POMをはじめ、汎用樹脂からスーパーエンプラまで幅広い樹脂に対応しています。流動性の異なる樹脂それぞれに合わせた金型設計・ゲート設計のノウハウを蓄積しています。具体的な樹脂・グレードについては、内容にもよりますがまずはご相談ください。
まとめ
スパイラルフローは、渦巻き状の流路を流れた長さ(流動長)から樹脂の流れやすさを評価する実用的な試験です。流動長は樹脂グレード・成形条件・製品肉厚で変化し、ゲート位置の決定、肉厚設計、多数個取りの流動バランスなど、金型設計のさまざまな場面で判断材料になります。MFRと併用し、CAEや試作と組み合わせて判断することで、量産前に充填トラブルを未然に防げます。
■ お問い合わせ
樹脂の流動性を踏まえた金型設計のことなら、株式会社三幸にお任せください。
試作金型から多数個取りの量産金型、ゲート設計のご相談まで、内容にもよりますがまずはご相談を承っています。お問い合わせフォーム →
お電話でのご相談: 0766-31-0646(代)(平日 8:30〜17:30)
この記事の監修者
営業技術部 部長 岡鼻
株式会社三幸にて金型設計に18年従事。射出成形技能士2級。化粧品・医薬品・食品分野のキャップ・容器を中心に、樹脂の流動性を踏まえた金型設計・成形条件の最適化に長年取り組んできた。
参考文献
- JIS K 7210「プラスチック-熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレイト(MFR)及びメルトボリュームフローレイト(MVR)の試験方法」日本規格協会
- 日本塑性加工学会 編『プラスチックの成形加工』コロナ社
- 株式会社三幸「製作実績」